自分の立ち位置から・すべての人が一歩前へ

生活経済政策研究所会長・NTT労働組合委員長
加藤 友康

 2011年3月11日、東北地方を襲った大地震と大津波は、その被害の甚大さともに、「自然と共生する」という言葉の背後にある人間の論理の傲慢さを我々に突き付けました。日本の産業・生活そして社会システムの構造の脆弱さを露呈させた「広域・複合大災害」からいかに復興への道程を描くのか。「生存権」の意味を根底から議論しながらの抜本的改革が待ち望まれています。

 復興への道程、新たな日本への再出発の行方が厳しく問われる中、生活経済政策研究所は今年、多くの皆さんのご尽力とご支援により15周年の節目を迎えることになりました。その設立の基本理念である「民主主義の発展と社会的公正の尊重」が平和・経済・生活を直撃する国内外での危機的状況を脱し、社会の切実な要求に応える重要な出発点になることを改めて確信しております。

 「広域・複合大災害」の発生前、日本社会は働くことを軸とする安心社会の実現に向けたアクションプログラムを策定し、その実効性を追求していこうというステージにようやく入ったところでした。不安定な非正規労働者が就労者の三分の一を占め、働いても年収200万円以下という人々、働きたくても働けないという人々が1000万人を超える。そんな社会そのものの底割れにふたをするセイフティネットや就労支援の構築に加え、雇用政策と職業教育をつなぐ教育改革の重要性も認識されていました。また、税と社会保障制度改革は、従来の少子高齢社会のもとでの人口減少への対応のみならず、日本の社会の将来像の問題として、待ったなしの国民的課題であるとの認識が持たれていました。

 そうした課題に今回の「広域・複合大災害」の大教訓をどのように生かすのか。また、今回の「広域・複合大災害」によって新たに浮き彫りになった従来の地震対策とエネルギー政策の問題点とその抜本的改革は国際社会からの注目も集めています。これらの課題に取り組む政治システムの責任の重要性は言うまでもありませんが、企業活動、社会活動等のすべての生活のステージにおいて価値の転換が求められています。

 まさにその価値の転換、一歩前の政策提言を目標に、研究者、労働組合、福祉団体をはじめとする市民組織、市民、国会議員等が参画する非営利のシンクタンクである生活経済政策研究所は今日まで地道な活動を積み重ねてきました。自主研究をはじめ、行政・企業・諸団体からの委託研究、タイムリーなテーマを議論する場である月例研究会やシンポジウム。月刊誌『生活経済政策』も多方面から高い評価を得ております。

 生活研はこれからも政治・経済を含めた広く生活の焦点となる政策課題への発信力を高め、日本の進むべき方向性、働く人々と市民の生活向上、安心・安全な社会づくりに向けて一歩前の姿勢と政策提言を実践していきたいと存じます。今後とも多くの皆さんの参画とご支援、ご協力をよろしくお願いたします。