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明日への視角

生活公共論のすすめ

住沢博紀(日本女子大学家政経済学科教授)

 私の勤務する家政経済学科は、生活者の視点から経済学を教えるユニークな学科として1964年に設立された。現在では生活経済論として多くの経済学部にも定着している。生活経済論は、家族の構成員としての収入・支出構造、就業、家事・育児などのアンペイドワーク、社会保障と家計などを論じる。さらに環境やジェンダーの重視、生涯に及ぶ経済生活を研究対象とするライフステージ論など今日性も豊かである。
  それでも、政治学を専攻する私の立場からは、多くの論点が欠けているように思える。
  第一に、消費者保護はあっても生活の場での市民の権利から出発してはいない。第二に、行政との関係では、主体的な行政との協働や制度設計まで含めた市民活動として構想することが現在では生活者に問われている。その中で、生活公共という概念が次第に浮かんできた。
  この概念は、以下の三つの点で大きな可能性があると考えられる。
  第一に、「新しい公共性」や「新市民社会論」のなかでも同じように、市民活動や討議への参加が論じられている。しかし多くは規範論であり、欧米の著名な学者の学説紹介である。こうした理論にNPOのさまざまな事例紹介が接木されている。生活上のニーズを出発点として具体的な問題を解決しながら、それをより普遍的な「生活公共」という概念にまで高めていく市民活動が、今必要とされているのではないだろうか。
  この主張は、第二に、日本ではついに自由な個人の連帯をしめす「社会」という概念が根付かなかったことと関連する。この欧米の「社会」概念は、日本では行政の一部や地域社会の一部を含めた「生活公共」として、より現実的に把握されるのではないだろうか。
  第三に、宇沢弘文教授が提唱する「社会的共通資本」とは、まさにこの「生活公共」の領域に対応し、その活動ルールを規定するものではないだろうか。
  昨年から、「生活公共」という概念を学生にもわかりやすく説明する講義を試みている。また今年から、日本の12ほどの地域を選び、「生活公共」の優れたあり方を共同研究として組織している。この研究が実を結ぶまでにはもうすこし時間がかかりそうである。

生活経済政策2006年12月号掲載