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明日への視角

復旧ではなく、新しい社会システムによる復興を

後 房雄(名古屋大学法学部教授)

 依然として原発をめぐる緊急事態から脱却できない状況が続くが、東日本大震災の甚大な被害からの復興への戦略的な取り組みは直ちに開始されなければならない。
 これほど広範囲で深刻な災害である以上、一地域に限定された復旧というアプローチでは決定的に不十分であり、日本社会全体が取り組む新しいシステムの構築による復興というアプローチが必須であることはすでに指摘され始めている通りである。そして、その過程で示される日本社会全体の力量が、いやおうなく国際的な注目の対象となり、今後の日本への評価を決めるだろう。
 二大政党を中心にした「政権交代のある民主主義」を、民主党や自民党は、見え透いた党利党略を超えて運用できるだろうか。それぞれ、単なる政権維持、単なる早期解散にしか関心がないというのが多くの国民の受け止め方である。まずは、期間限定の「大連立」という課題への取り組み方が当面の試金石になるだろう。
 政府行政セクター、企業セクター、サードセクター(非営利協同セクター)という3つのセクターの分担連携関係の再構築という課題も避けて通れない。企業セクターやサードセクターを政府行政の伝統的規制から解放することを基調に、新たな3セクターの関係を、被災地の社会システムの再構築の現場から構築していくべきである。
 たとえば、特別養護老人ホーム、保育所、病院、学校などの運営を、主務官庁に統制された特定の公益法人にしか認めないなどというシステムで、緊急のニーズに対応できるとは思われない。
 そのなかで、企業も、「社会的責任」の果たし方を正面から問われるだろうし、サードセクターもまた、その理念やミッションにおいて実際の成果を挙げる力量を問われるだろう。
 もう一つ、地域コミュニティについても、単なる現状維持、復旧ではなく、今後数十年機能しうるようなあり方を模索すべきである。たしかに、町内会、自治会などの地縁組織が今回もまた重要な役割を果たしたが、全戸加入の建前、行政との曖昧な関係を維持したままで、長期的な衰退傾向を脱し、復興における重要な主体になりえるだろうか。
 一世帯一票という原則は維持するにしても、任意加入と透明な民主的意思決定を前提に、もっとも地域に根ざしたNPOとしての新しいあり方(共益ではなく公益)をめざすべきだろう。有給職員を核にした事務局の確立も必要である。その際には、行政との関係も、不透明な委嘱、補助関係から、フルコストに基づく事業委託契約へと転換させることが不可欠である。

生活経済政策2011年5月号掲載