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明日への視角

日本の発展戦略は?

坪井善明(早稲田大学政治経済学術院教授)

 

 ベトナム経済研究所のチャン・ディン・ティエン所長(54)は、ベトナム経済界での論客として良く知れられている。経済の複雑な問題を、一般大衆が分かるように易しくかつユーモアをもって語るので、一般人にも人気がある。

 2012年5月のゴールデンウィークに、ハノイで金融危機打開対策のセミナーを開催した。日本からは財務省の高官にも参加頂いて、議論は盛り上がった。3.11以降の日本の現状と少子高齢化社会の様々な諸問題を日本側が説明した。

 ティエン所長が挙手をして、日本側の参加者を見渡しながら、質問を投げかけた。「日本の現状についてはよく分かった。少子高齢化社会での問題点も理解した。でも戦略的パートナーとして、ベトナムとしては日本の将来にわたる発展戦略を聞かないと、良きパートナーとしてベトナム国民に安心を与えることは出来ない。今後、日本がどういう戦略を持って発展しようとしているのか誰でもよいから説明して欲しい。」

 財務省高官を含めて日本人参加者は、「想定外」の質問に度肝を抜かれたかのように、言葉を失っていた。誰も答えないで場が白けるのを防ぐために、思い切って私が持論を述べることにした。「日本列島だけを考えると、現在の日本が明確な発展戦略を説得力を持って語るのは難しい。だが、若者が圧倒的に多いが資金と技術が不足しているベトナムを始めとするアセアン諸国(ASEAN:東南アジア諸国連合)と緊密に連合すれば、相互補完関係になる分野が多く、少子高齢化という社会問題も、経済発展という経済問題も解決できる説得力のある発展戦略を展開することが可能だと思う。自分としては、その方向に物事が動くように微力ながら尽力している」と答えた。

 ティエン所長は、微笑をもって頷いてくれた。しかし問題は、日本人の側にある。日本人が将来の発展戦略を考えるほど楽天的ではなくなっているし、たとえ考える人がいても多くの場合日本の領域だけの枠組みで考えているか、依然として欧米か中国との協調で発展戦略を考えているだけである。アセアン等の中小途上国への知識も理解も薄く、念頭にそれらの国々の人々の姿が浮かんでないことにある。

生活経済政策2012年10月号掲載