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明日への視角

女性自営業者とひとり親の間

木本喜美子【一橋大学名誉教授】

 地方圏の自営業調査研究の中で、女性による自営業創業者についてまとめながら、あらためて考えさせられたことがある。たとえば三〇歳代の若田あゆみさんは、専門学校で製パン技術を身につけてはいたが、早朝からの仕事、自由時間の乏しさを嫌って、初職のパン屋勤めを1-2年で辞めて飲食業のバイトでつないできた。子どもを抱えながら離婚した後も、「ひたすらフリーター」を続けてきたが、あるきっかけで「本当は、パン作りが好きだったんだ」とやっと気がついたという。周囲の応援もあって、借金もして2017年にパン屋をひとりで創業した。「6歳の子どもと一緒にいられる仕事」との気持ちも、強く働いていた。近くに住む親は「ビタ一文くれず」、どうしても困った時だけ子どもを預かってもらうという。フリーター時代も含めて、常に子どもを連れて歩いていた。
 若田さんはいま、2つの問題を抱えている。ひとつは労働時間問題である。住まいでパンを焼き車で店まで搬入するために、焼き上がったパンが冷めるのを待って個包装にする時間が必要となる。ただでさえ早朝からのパン焼き作業にこの時間が加わることが、大きな負担となる。彼女は、こうした自らの働き方を、「自分の人件費を考えていない、『ひとりブラック』だ」と語る。そして「今は若さも体力もあるからいいけれど、いつかつらくなるかなと考えるし、働き方改革をしないといけない」という。その解決方法は、すでに見つけている。住まいと店を一体化させること、より上位の性能のオーブンを導入することである。前者については模索中だが、後者については補助金を申請した。
 もうひとつは、「子どもを自分の仕事に巻き込みすぎている」という危惧感である。コロナ禍で急な休校措置がとられた時は、「自営業でよかった」と思った。だが9歳頃から息子が「パン屋を継ぐ」と言い出した時には、愕然としたという。この世にはたくさんの職業があるのに、いろんな世界をまだまだ知らないのに、母である自分の仕事ぶりを案じて視野が狭くなっていると考えるからである。ひとり親が子育てとの両立を図るために自営業が大きな意味を持つことはたしかであるが、さらに現実的な支援の方途を多面的に考えることが求められている。

生活経済政策2023年7月号掲載