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明日への視角

強さを求める時代に抗う

三浦まり【上智大学法学部教授・生活経済政策研究所所長】

 「時代の転換期」という言葉は繰り返し使われ、もはやそこに新鮮味はないが、しかしながら、いよいよ本当の転換に直面していることは誰も疑わないだろう。国際関係と政党政治が連動しながら、政治秩序の再編成が急速に起きている。これは世界的な現象だが、日本においては円安などによる地位低下と物価高が人々の不安感と剥奪感を強め、それを利用する政治勢力の拡張により、戦後秩序が塗り替えられつつある。
 自民党が包括政党として、格差を抑えて民意を調達する政治手法は過去のものとなった。いまや、右傾化を強めることで必死に生き残りを図っている。野党第一党の立憲民主党が中道へとシフトするなら、政党政治全体の右傾化に手を貸すことになるだろう。主として右の小政党が独自性を際立たせる主張を掲げ、分極的な様相が強まっている。混沌とした政治状況は、軍事化、排外主義的なナショナリズムの昂揚、市民的自由の侵害などを伴いながら、未来への希望を奪いかねない。
 日中関係に関する世論の動向を見ていると、どうやら人は簡単に経済的合理性を捨て、強さの幻影に酔いしれてしまうものらしい。街角で、カジュアルなヘイトスピーチに突如出くわすことも増えてきた。経済的な不安と政治への不満は差別感情を助長し、それは戦争への地ならしとなる。
 この時代状況にどう抗うことができるのだろうか。私には、経済格差の拡大と人権保障の停滞が、日本の経済的な低迷をもたらしたとしか思えない。そして経済的な地盤沈下は「強さ」への憧憬を作り出し、戦後の平和主義を切り崩そうとする。このことがさらに平等の基盤を瓦解させる。つまりは、経済格差是正、人権保障(反差別)、平和は三位一体であり、それらを同時に追求していく政治ビジョンが求められるのだ。どれひとつとして、切り崩されてはならない。
 政治家は、多様な人々との対話を通じて「痛み」に届く言葉を鍛え上げえてほしい。強さではなく、優しさを—それを待っている人が実は多数であることに、未来を託したい。

生活経済政策2026年1月号掲載